東京地中熱ポテンシャルの検討方法
東京地中熱ポテンシャルマップとして整備した各マップの検討方法について、以下で説明します。
見かけの有効熱伝導率分布図
有効熱伝導率は、地中熱ヒートポンプを利用した空調システムの設計を行う際に必要となる地盤の熱物性の値で、熱移流の影響を考慮しない一般値が文献資料として公表されています。
しかし、ボーリング等データから得られた土質区分から一般値を使って想定した地盤の有効熱伝導率*1と、実際の地盤に設置した熱交換井等で計測される実測値(見かけの有効熱伝導率*2)では、大きく値が違っている例が多数あります。この原因の一つとして、地下水の流れによる熱移流の効果が考えられています。したがって、地中熱ヒートポンプの設計を行う場合には、以下の採熱方法ごとに、実際に得られるであろう熱量を想定する必要があるため、見かけの有効熱伝導率のマップを作成しました。
コラム解説:有効熱伝導率
地中熱ポテンシャルマップで使用した採熱方法
- 地表~100mまでの平均的な見かけの有効熱伝導率(ボアホール方式*3を想定)
- 地表~30mまでの平均的な見かけの有効熱伝導率(杭基礎方式*4を想定)
- 地表下5mの地盤の有効熱伝導率(水平方式*5を想定)
- *3 ボアホール方式:一般的なボーリング孔に採熱管を設置する方式
- *4 杭基礎方式:建物の支持杭の打設時に採熱管を抱き合わせで施工する方式
- *5 水平方式:地面を平面的に掘削して採熱管を敷設する方式
- (*3~5はそれぞれ採熱管長さ及び採放熱量の計算にも使用)
東京地中熱ポテンシャルマップでは、約20,000本のボーリングデータ(「東京の地盤(GIS版)」(東京都土木技術支援・人材育成センター)の柱状図データ)を基に地層モデルを作成し、東京都内の土質区分分布を想定するとともに、地下水流動解析によりメッシュごとの地下水流量の分布を検討し、熱移流を考慮して見かけの有効熱伝導率の分布図を作成しています。
なお、水平方式の地中熱利用に関しては、その工事方法が地表から採熱管設置範囲を全面掘削し、採熱管の設置後にこれを埋戻して採熱を行うという工法であるため、自然状態の地盤が乱されて地下水の熱移流の効果が期待できないことが考えられることから、熱移流の影響を除いた地盤の有効熱伝導率をマップ化しています。
見かけの有効熱伝導率分布図の
作成フロー図
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建物種別毎の採熱管長さ(本数)分布図
地中熱を利用した空調設備を検討しようとするときに、建物の所有者や空調設計を行う設計技術者が最初のハードルとして苦労することとして、「地中熱利用の初期投資が概算の費用感としてどれくらいなのかがよくわからない」ということが挙げられます。地中熱を利用するためには、多くの場合、掘削機や杭打ち機などで地面に穴をあけ、採熱管を数10~100mの深度まで設置して、熱の交換を行う必要があり、これが一般のエアコンなどに比べて初期投資がかさむ原因となっています。
そこで、東京地中熱ポテンシャルマップでは、初期投資費用に大きく影響を与えると考えられる採熱管の本数(長さ)の分布図を作成しました。必要となる採熱管の本数(長さ)は建物の熱需要や冷暖房の比率、負荷時間などによって変わってしまうため、ここでは建物の用途ごとに下表に示す建物種別に熱需要を想定し、見かけの有効熱伝導率分布をベースに、地中熱ヒートポンプシステムを設計する計算ソフト「Ground Loop Design」(GLD)を用いて検討を行いました。検討に使用した熱需要のデータは、住宅では「家庭用エネルギー統計年報2014年版」、住宅以外の建物ではDECCの「非住宅建築物の環境関連データベース」の値を使用しました。また、住宅(家庭用)についてはボアホール方式と水平方式を想定し、非住宅用の施設については、ボアホール方式と杭基礎方式を想定して、合計20種類の分布図を作成しました。
ボアホール方式の地中熱利用は、ボーリング機械による掘削を行うため、採熱管設置深度は地質状況により任意に決められますが、1本の長さについては、一般的に100m程度といわれているため、このマップ上では、計算により導かれた採熱管の必要な長さを、1本=100mの採熱管長さで割戻し、必要本数として算出しました。
杭基礎方式の地中熱利用は、建物に杭基礎が必要な場合に杭の施工と同時に採熱管を設置する方式で、採熱管の長さは杭基礎の長さに規定されてしまいます。ここでは、実際の施工事例を参考に、採熱管の長さを30mと設定して、計算により導かれた採熱管の必要な長さを1本30mの採熱管長さで割戻し、必要本数として算出しました。したがって、ボアホール方式に比べて、杭基礎方式の方が採熱管本数は多く必要という結果になっています。
水平方式の地中熱利用は、地盤の中に垂直方向ではなく、水平方向に採熱管を設置する方式のため、平面的な掘削が必要になってきます。したがって、ボーリング機械や杭打ち機のような大型の機械は必要でなく、小さな掘削機械による比較的浅い掘削で済むため、場合によっては初期投資が抑えられる場合があります。その反面、地下深い部分の地下水の熱移流を利用するなど、効率的な熱利用が利用できないため、一般的にはボアホール方式や杭基礎方式よりも熱交換の効率が悪くなってしまいます。設計に当たっては、これらの方式ごとの特徴を考慮して検討を行う必要があります。
建物種別毎の採熱管長さ(本数)分布図の
作成フロー図
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区分 | 建物種別 | 検討した採熱方法 | 想定床面積 |
---|---|---|---|
住宅用途 | 1.住宅(家庭用) | ボアホール方式、水平方式 | ― |
非住宅用途 | 2.小規模商業施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 158㎡ |
3.中規模商業施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 1,429㎡ | |
4.大規模商業施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 18,026㎡ | |
5.学校施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 12,851㎡ | |
6.余暇・レジャー施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 5,780㎡ | |
7.宿泊施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 17,405㎡ | |
8.医療施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 21,622㎡ | |
9.公共施設 | ボアホール方式、杭基礎方式 | 10,340㎡ | |
10.大規模共同住宅・オフィスビル | ボアホール方式、杭基礎方式 | 30,904㎡ |
建物種別毎の採放熱量分布図
これまでに他地域で検討されてきた地中熱ポテンシャルマップの中には、その場所でどれだけ熱が利用できるかを示す採熱量分布図という形で公開されているものがあります。そこで、東京地中熱ポテンシャルマップでも、他のマップと比較できるように採放熱量分布図について併せて検討を行いました。
地中から熱を利用する場合、いつでも、どんな状況でも一定量の熱が利用できるわけではなく、建物の熱需要や冷暖房の利用時間(家庭や店舗、オフィスなど利用形態によって変わってくる)の違いにより、利用できる熱の量が変化します。これは、地中の熱を長時間使い続けるなどの利用形態により、地盤内への熱の貯留状況が変動するためで、二次側の条件(建物や冷暖房機器の設計条件)と地中熱採熱管のバランスが設計を行う上で重要なポイントとなり、地中熱利用の設計を難しくしています。東京地中熱ポテンシャルマップでは、採熱管長さ(本数)分布図と同様に、建物種別と採熱方式毎に採放熱量の分布図を作成し、前述の表に示した建物種別毎、採熱方法毎に合計20種類の分布図として作成しています。
建物種別毎の採放熱量分布図の
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